この学校に引越しきて、最初はよくわからないことが多すぎたけれど・・・、少しずつ慣れてきていた。それも、このテニス部のおかげだと思う。
前の学校でもテニス部のマネージャーをしていて、その経験を是非活かしてほしいと、白石部長に入れさせてもらった。そして、この部から友達ができて・・・だんだんクラスにも馴染めるようになってきた。
だから、本当に白石部長には感謝しているし・・・それ以上に・・・・・・とは思うんだけど。未だに理解できないのも、この人だったりする。



「金ちゃん、言うこと聞けへんのか・・・?」

「し、白石っ!!待って〜なぁ!ワイ、まだ死にとうない・・・!!」



後輩の遠山くんとそんなやり取りをしている白石部長を見て、やっぱり・・・と首を傾げる。



「どないしたん??」



そんな私を見て、白石部長から逃げてきた遠山くんは、私に対して首を傾げている。
・・・本当、遠山くんは素直だよね。そんな遠山くんに言ったって無駄なことはわかっているけれど。私の方が疑問を感じてるんだ。



「んー・・・白石部長の包帯、あれって本当は何なのかな〜っと思って。」

「あれは毒手やで!ワイ知っとるもん・・・!!」



うん・・・。やっぱり、無駄だった・・・・・・。

白石部長の左腕には、常に包帯が巻かれている。当然ながら、『毒手』は遠山くんを諌めるための嘘。
だけど、そのためだけに、ずっと包帯を巻いているとは考えにくい。でも、たまたま廊下ですれ違ったときでも、絶対に包帯を外しているところを見たことがない・・・。何か、他にも理由があると思うんだよね。
本人に聞けば早いかもしれないけれど・・・たぶん、私もからかわれて、教えてくれなさそうな気がするから、その前に。知っていそうな先輩から当たってみることにした。

1人目は・・・。



「千歳先輩!」

「ん、?どないしたと?」

「あの・・・千歳先輩って、白石部長が何の為に左腕を包帯で巻いていらっしゃるか、御存知ですか?」



千歳先輩って、白石部長と仲良さそうだし・・・。ほら、それに『才気煥発の極み』とかでわかるかもしれないじゃない?!
・・・・・・って、私もだんだんボケられるようになってきたのかしら・・・。



「そりゃあ・・・金ちゃんのため、やなかね?」

「本当にそれだけなら、部活中だけでいいと思いません?でも、私は白石部長が取っていらっしゃるところを見たことが無くて・・・。」

「たしかに・・・。でも、俺もこれ以上は知らんばい。」

「そうですか・・・。」

「役に立てんくて悪いな・・・?」

「いえ、とんでもありません!ありがとうございました!!」



そう言って、残念に思いながらも、千歳先輩とは別れ、次のターゲットを探す。
2人目・・・と3人目は・・・。



「金色先輩、一氏先輩!」

「あら、ちゃん!」

「なんや、俺らに用かー?」



正直、一氏先輩は知らないかなとも思うんだけど・・・。この御二人は常に一緒にいらっしゃるから・・・。とにかく、いろんな方のデータを知り尽くした金色先輩なら、白石部長の包帯のことも知っていらっしゃるんじゃないかと思うんだよね!



「あの、御二人は白石部長の包帯のこと、何か御存知ですか?」

「包帯・・・?金太郎さんを止めるためやろ?」

「そんなこと、ちゃんかてわかってるわよー、きっと。ねぇ?」

「え、えぇ・・・。でも、『毒手』って嘘のためだけに、ずっと巻いていらっしゃるのだとしたら少し疑問だな、と・・・。」

「んー・・・でも、それ以外の理由は、俺らも知らんわ〜。」

「そうやねぇ〜・・・。ごめんね?ちゃんの恋のお手伝いはしてあげたいんやけど・・・。」

「いえ、大丈夫です!ありがとうございました!!」



やっぱり、御二人もそれ以上は・・・・・・って、その前に・・・。なんで、私のことがバレてるの?!
金色先輩の仰るとおり、私は白石部長には感謝という気持ちと、そして、それ以上に特別な想いも抱いていた。・・・だけど!それは誰にも言ってないし!!



「って、待ってください、金色先輩!!」

「な〜に?そんなに慌てて・・・。」

「だ、だって、今・・・恋とか・・・!!ど、どうして、そんなことを・・・!」

「アタシにわからへんことがあるとでも思ったん?」

「甘いな、は。」



いや、現に!白石部長の包帯のことは御存知なかったんでしょう?!と、心の中では突っ込んでおいた。・・・うん、ツッコミもできるようになってきたのかもしれない。
でも、実際には慌てすぎて、そんなことを言う余裕は全くもって無かった。



「と、とにかく!失礼しました・・・!」



私はそれだけを言って、早々に立ち去った。
まさか、金色先輩だけでなく、一氏先輩にもバレていたなんて・・・。私って、わかりやすいのかな・・・。もしや、千歳先輩にも?!少なくとも、遠山くんにはバレてないと思うけど・・・。どうなんだろうか・・・。
こうなってくると、次に聞こうとしていた人にも聞きにくくなってきた。特に、次の人は周りの空気を読む力と言うか、周りを見ていてくださることに長けた方だから・・・。

そう、最後は白石部長を支えていらっしゃる小石川副部長に・・・・・・と思って、部室を覗くと、そこにはちょうど包帯を付け替えている白石部長本人がいらっしゃった。
これは千載一遇のチャンス!!よし、白石部長に気付かれない内に・・・・・・。



?そんな所で、何してるんや?部室に用あるんやったら、入って来てええでー。」



・・・と思ったけど、作戦は見事に失敗だった・・・・・・。私はすごすごと白石部長の言う通り、部室に入って行った。



「何かあったんか?」

「いえ・・・。その・・・。」



もうこうなったら、直接本人に聞いちゃえ!!どうせ、他の人には聞きにくいかなって思ってたところだし・・・。まさか、本人には知られていないだろうからね。
そう思い、私は覚悟を決めて問いかけた。



「部長、その包帯って、どうされたんですか?怪我とかじゃないですよね?」

「ん?これか・・・?そりゃ、怪我やないで?これは・・・。」

「毒手、は無しですよ?」

「先言われてしもたか。」

「そんな嘘が通じる相手は、遠山くんだけです。」

「それもそうや。」



私が真剣に聞いているのに、白石部長は楽しそうに笑っていらっしゃる。・・・本当、カッコイイんだから・・・・・・って、そうじゃなくて。いや、そうじゃないこともないけど。
だって、大好きな人だから・・・。笑顔だって、すごく輝いて見えるよ。・・・そして、そんな大好きな人だから、少しでも知りたいって思ってしまうじゃないですか。



「ただ、その嘘のためだけに付けていらっしゃるとも思えなくて・・・。だって、白石部長は制服のときでも、いつも包帯をしていらっしゃいますし・・・何か他にも理由があるのかなって・・・。でも、他の先輩方も御存知ないようなので・・・・・・。だから、言いたくなければいいんですけど、他にも理由があるのなら、教えてくれませんか?」

「そんなに気になるん?」

「はい。」

「・・・しゃーない、わかった。がそこまで言うんやったら。」

「本当ですか?!」

「特別やで?」

「やったー!ありがとうございます!!」



私の真剣さが伝わったのか、白石部長はまた優しい笑顔で、そう言ってくださった。本当に嬉しくて、私は思わず大喜びしてしまった・・・。でも、気にしない!だって、教えてもらえるんだもの!!



「ほな、ちょっとジッとしといてな?」

「はい!」



白石部長は巻きかけてた包帯を少しずつ外しながら、私の後ろの方へ回って行かれた。・・・わざわざ外させてしまって・・・悪いことをしたかなと、反省をしていると。包帯を持った白石部長の右手が私の目の前を横切った。よく見ると、私の左肩から右肩まで、白石部長の包帯がぐるりと巻かれている。見なければわからないぐらいで、全く強くは巻かれていないけれど・・・それでも、巻かれている事実には変わりない!!

慌てて振り返ろうとすると、今度は何も持っていない白石部長の右手が、私の右側から出てきて、私の左肩を軽く掴んだ。どうやら、包帯は左手に持ち替えたらしい。視界の左下の方に、そんな白石部長の手が微かに見える気がする・・・。
・・・なんて、冷静に考えている場合じゃない!え?!こ、この体勢、何なんですか?!!



「これは、こうやって・・・を連れ去るために付けとったんや。」



当然こんな体勢だから、そう囁いた白石部長の声は、私のすぐ後ろで聞こえた。
やっぱり、からかれた・・・!!と思うけど、予想以上のからかいに、私はすぐに何かを言い返すことができなかった。
ゆっくりと深呼吸し、落ち着いてと自分に言い聞かせる・・・。



「・・・白石部長。ですから、そんな嘘が通じるのは、遠山くんぐらいですよ。」

「いやいや。半分本気や。」

「じゃあ、半分は冗談なんでしょう?」

「でも、半分は冗談やないってことや。」



私たちの体勢は変わらぬまま、そんな堂々巡りになりそうなやり取りをした。
・・・・・・そろそろ限界だ・・・。もう落ち着いてなんかいられない・・・!



「とにかく、白石部長。一旦放してください。」

「それはできん。・・・言うたやろ?これはを連れ去るためのもんやって。まだ連れ去ってへんのに外すわけにはいかん。」

「部長・・・!」



焦った声を出す私とは違い、白石部長はあくまで落ち着いて、そして真剣な口調で言葉を続けた。



「ええから・・・ちょっと俺の話も聞いて?・・・ホンマに半分は本気なんや。さすがに連れ去るわけにはいかへんけどな。でも、できることならそうしたい。そう思うぐらい、俺にとっては特別なんや。・・・だから、せめてから答え聞くまでは放せへん。」

「白石部長・・・。」

「どうや?は俺やったら連れ去られてもええと思う?それとも・・・。」



そんなの当然。いいに決まっている。私は白石部長のことが大好きなのだから・・・。
でも、そう答えてしまったら、放してもらえる・・・いや、放されてしまう。それは少し寂しいかもしれない。
なんて、少し矛盾したような・・・ううん、むしろ当然のような考えに陥って、余計に恥ずかしくなった私は、それを隠すように少し笑ってから答えた。



「・・・白石部長となら、何処へでも。そう思えるぐらい、私にとっても特別な存在です。」

「ホンマに?」

「はい。」

「じゃあ、やっぱりこれは外せへんな。」

「え?」



約束と違う。・・・まぁ、それでも構わないんだけど。でも、一応は私が答えるまで外せないということで・・・私が答えたら外してもらえるんだと思っていた。



「だって、にそんな風に答えてもらって、連れ去らんわけにはいかへんやろ。」



今度は、最初のような少し冗談っぽい口調に戻られて、私もふっと吹き出してしまった。



「さっき、白石部長ご自身が、本当に連れ去るわけにはいかない、って仰ってたじゃないですか。」

「あぁ、そうやった。ナイスツッコミや。」



白石部長は楽しそうに私を褒めてくださりながら、やっと私を解放された。・・・やっぱり、少し寂しいかなと思ってみたり。
・・・・・・って、そういえば。



「結局どうして包帯を付けていらっしゃるのか、という疑問には答えてもらってない気がするんですが・・・。」

「そやから、これは金ちゃんを止めるため、そんでを連れ去るため、ってことや。」

「えー・・・。」



納得がいかないという返事をしながら、本当はそれでもいいかと思っていた。だって、とても感謝していて、すごく大好きな人から、そんな風に言ってもらえたなら、つい許しちゃうじゃない。
・・・それに、今後はきっと一緒にいられる時間も増えるだろうから・・・・・・。



「では、これから時間をかけてでも、私が自分で解明してみせます!」

「・・・楽しみにしとくわ。」



私が楽しそうに返せば、白石部長も挑発するようにニヤリと笑われた。でも、それももちろん本当の挑発なんかではなく、冗談っぽい感じだった。
そんな白石部長を見て、これからも毎日が楽しみだと思えて、また感謝が深まった。・・・それに大好きだって気持ちも、もっと強くなりましたよ、と心の中だけで私は呟いておいた。













 

ついに、四天宝寺カテゴリー登場!(笑)これから、ドンドンドドドン四天宝寺!と増やせればなぁ、などと考えております(←)。
やっぱり、関西弁は書くのが楽ですからね(笑)。とは言え、その中でキャラを書き分けるのも、予想通り難しかったのですが・・・(苦笑)。正直、白石さんもこんな感じ??って思っちゃうぐらいで・・・。ほとんど初書きみたいなものなので、勘弁していただけないでしょうか・・・?(汗)

ただ、金ちゃんは書いてて楽しかったですね!うっかり「俺」と書いちゃいそうでしたが、基本的には1番自然に台詞が出てきたように思います。今度もぜひ活躍させたいですね!
対して、千歳さんは難しい!・・・まぁ、彼は関西弁じゃないですから(笑)。こんなことなら、熊本に住む親戚ともっと仲良くしとくんだった!(←オイ)・・・でも、教えてもらうときに理由を訊かれたら答えにくいので、やっぱりこれからも自力で頑張ります(笑)。

('09/08/20)